2016.07.18 Monday 11:38

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」11

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(11) 若林波留美

 

「作句のための旧仮名遣ひ」の連載を終えて

 

 「紫」に掲載した旧仮名遣ひに関する文を、

現在のネット等による読者の方々にお読み戴く為、

「俳句スパイス」に転載して貰いました。

担当者さんには、パソコン入力に御苦労をおかけし、感謝しております。

 

 元の原稿は全て旧仮名遣ひでしたが、若い読者の方に読み易いよう、

地の文は新仮名遣いで掲載してあります。違和感は無かったでしょうか。

 

 * * * * * * * * * * * * * * *

 

 新仮名遣いは易しいと思っておいでの方が多いようですが、

ことばに関する規則性から言えば、旧仮名遣ひの方が理に適っており、

「規則性に欠ける」点では、新仮名遣いの方がむしろ難しいと言えます。

 

「新妻」は「にいづま」、「稲妻」は「いなずま」。

この違いの理由が説明出来ますか。

 

「高速道路」は「どうろ」、「銀座通り」は「どおり」。

この違いの理由はいかがですか。

 

 こうしたことが説明できて、はじめて「新仮名遣いは易しい」と

言えると思います。私は未だに納得出来る説明を聞いておりません。

 

 旧仮名遣ひをいとおしむ者として、

ひとりでも多くの方が旧仮名遣ひに親しんで下さるよう願っております。

ご高覧戴きありがとうございました。

 

 俳句結社「紫の会」副主宰 

          若林波留美

 

灯台

photo by K

 

予告:10ヶ月にわたり「旧仮名遣ひ」について連載してきましたが、

   今回で終了になります。

   来月からは新たに「紫」無門集同人・鳥海美智子さんによる

   俳人紹介&俳句エッセイ「俳句つれづれ」がスタートします。

   どうぞお楽しみに。

 


2016.07.15 Friday 11:28

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」10

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(10) 若林波留美

 前回予告したとおり「旧仮名遣ひ歌留多」を載せます。「いろは歌留多」調で音読して下されば幸いです。

 ア行活用「得(う)」の一語(「心得(う)」は複合語と見て)
イ 「出」は出る、「出で」は出ない
 ウ音便ならア行の「う」
 だ(枝)にほほむやざくら
 「おほきい」「年嵩(かさ)(翁・媼)」ア行の「お」

 「かをる」は「を」の字、「にほふ」は「ほ」の字
 「消え・超え・冷え」はヤ行の「え」
 「くれなゐ」の「ゐ」は呉(くれ)の藍(あゐ)から
 けふも健在、ヤ行とワ行
 ことばの成り立ち知る仮名遣ひ

サ 「騒ぎ・ことわり(理)・くるわ(廓)」は「わ」の字
 しう(仕様)があるならしうぢやないか
 「す」と「つ」の濁音「づ」が多し
 「せ(為)ず・したり・す」はサ行変格
 促音の「つ」も堂々と

 「耐ふ」と「絶ゆ」とに気を付けて
 「小さい」「若い(男・乙女)」にワ行の「を」
 「つい」間違へて「つひに」身に付く
 「て(助詞)」が付くことばは音便注意
 「閉づ・綴づ・攀づ」はダ行の「ぢ」と「づ」

 慣れるが早道、旧仮名遣ひ
 「新妻・稲妻」「つ」に濁り
 抜いてはならぬ「井(ゐ)戸・ゆゑ(故)」に
 根は万葉にさかのぼる
 野の星屑(く)に葛(く)咲けり

 「恥」と「怖気」はダ行の「ぢ」
ヒ ひとつの行のみ動詞の活用
 「ふ」の字で言ひ切るハ行活用
 平安の世を訪(と)ふ仮名遣ひ
 「ほ」の字がおほかた語中の「オ」音

 万葉仮名から受け継ぐルール
 見う見真似でやつてみ
 向う岸の「う」はウ音便の「う」
 「愛(め)づ・撫づ・出づ」はダ行活用
 「もみぢ」も「藤」も「鯨」も「ぢ」

 ヤ行の「い」と「え」を絶やさずに
 いつも達者で「老」知らず
 「ゆ」の字で言ひ切るヤ行活用
 「え」の字が正解「燃え・見え・聳え」
 四つ仮名(じ・ぢ・ず・づ)しつかり使ひ分け

 落語で覚えた「なな
 理屈に適ふ旧仮名遣ひ
 るんるん気分で「このよ
 連濁守るは旧仮名遣ひ
 論より慣れよう「あを(青)・うを(魚)・みさを(操)」

 ワ行の「ゐ」と「ゑ」を忘れずに
 「居る」と「を(居)る」とはワ行の兄弟
 「植う・飢う・据う」はワ行の「う」
 「笑顔・声かけ」ワ行の「ゑ」
 「終り」も「尾張」もワ行の「を」

 
 五十音のうち大概のものは、前回までのどこかで書いた内容です。復習の一助にして戴ければと思います。長い間ご高覧戴き、ありがとうございました。

この稿の執筆に当たり、次の図書を参照いたしました。
紹介し、著者・編纂者へのお礼といたします。

『私の國語骸次戞(‥鍔饌検(現嬖幻
『かなづかひ』  「正かなづかひの會」発行
『かなづかひ』  「かなづかひ」を考へる会発行

(「紫」2009年6月号より転載)
 
緑の中

2016.06.24 Friday 11:26

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」9

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(9) 若林波留美
〈仮名書きの例が多い語の仮名遣い〉

 
 前回まではテーマを設け、それに従って書いて来ました。今回は拾遺篇として、仮名書きすることが多い語の仮名遣いを採り上げます。

◎「かう」「さう」「どう」「もう」

・「かうして」「かう言ふ」などの「かう」は「かくして」「かく言ふ」の音便です。(×「こう」「こふ」「かふ」)

 
・「さうして」などの「さう」は「然(さ)して」の延音です。漢文訓読調の文に使われる「然(さ)なり」(さうだ)と同じ語源です。

 
・「楽しさう」などの「さう」は相(さう)の字音仮名遣いです。相は、人相・世相などのように姿・様子の意味を表します。

 
・「どうして」などの「どう」は「どこ・どれ」と同じ仲間の語です。前の二語につられ「だう」と書かないように。

 
・「もうぢき」などの「もう」は、「まう」とする説もありますが、「もう」が正しいとの説もあり、決め兼ねます。

 
◎「つい」「ついで」「つひに」

 「ついうつかり」の「つい」は「突き」の音便、「ついでの折に」の「ついで」は「つぎて」の音便で「い」と書きます。
 「つひに実る」などの「つひに」は「終(つひ)の栖」などと同じ「終」の訓読で、「ひ」を用います。

 
◎その他、よく用いる語の例

 次のような語は、使い慣れることにより覚えて下さい。

 
「あへて」あへて〜せず
「あるいは」「あるひは」は後世の誤用
「くらゐ」どのくらゐ
「さへ」こどもでさへ
「せゐ」〜のせゐで
「なほ」なほさら・なほ〜して
「はう」その方が良いー字音仮名遣い
「ひとへに」ひとへに願ふ
「ゆゑ」なにゆゑ・ゆゑに〜なる
「わづか」わづか数人

 
この連載は、次回で終わります。最終回は復習を兼ね、今までの内容を「旧仮名遣ひ歌留多」とし、五十音順に載せようと思います。

 
(「紫」2009年5月号より転載) 

 
アガパンサス

2016.05.27 Friday 11:25

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」8

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(8) 若林波留美
 
〈「は・わ」「やう・よう」の使い分け〉

 1「ワ」と発音する「は」と「わ」の使い分け

助詞の「は」や、ハ行活用動詞の「は」(例えば「思はず」の「は」)の他に、「ワ」の音を「は」と表記する語があります。その使い分けの原則は、次のとおりです。

◎「ワ」の音が語頭にあるときは全て「わ」と書き、語中・語尾にあるときは主として「は」と書く。

特定の語については、語中・語尾の「ワ」音を「わ」と書く。

○語中・語尾に「わ」を用いる語の例
 あわ(泡)・あわてる(慌てる)・いわし(鰯)・うわる(植わる)・かわく(乾く)・ことわり(理・断り)・こわね(声音)・さわぐ(騒ぐ)・しわ(皺)・すわる(坐る)・たわむ(撓む)・よわい(弱い)

○語中・語尾に「は」を用いる語の例(仮名書きが多い語を優先)
 あは(粟)・あはい(淡い)・あはれ(哀れ)・いは(岩)・うつは(器)・うはべ(上辺)・かたはら(傍)・かは(川)・きは(際)・けはしい(険しい)・さはやか(爽か)・たはら(俵)・つはもの(兵)・とは(永遠)・にはか(俄)・まはり(回り)・よはひ(齢)・をはり(終)

 尚、複合語の場合は、元の語が「わ」であれば、語中・語尾でも「わ」を用います。

例 うちわ(内輪)・くつわ(轡)・くるわ(廓)・ことわざ(諺)・のわき(野分)

2「ヨウ」と発音する「やう」と「よう」の使い分け

 この使い分けの例文として、次の文があります。

○見やう見真似でやつて見よう
○この問題をどうしようかと思つたが、どうしやうも無かつた。

 「やう」と書く方は、様(やう)の字音仮名遣いで、〜の如く、〜のさまに、という意味になります。例文に漢字を当てれば、見様・仕様となり、「見し如く」「行ふ(為(す)・仕)さま」と言い換えられます。
 「よう」と書く方は助動詞で、文語表現に置き換えれば、「せむ」「む」と言い換えられます。

 先の例文を、文語表現に置き換えてみます。

○見し如く見真似をし、やつて見む。
○どうせむかと思ひしが、どう為(す)るさま(方法)も無かつた。

 これを逆に当てはめると、文として意味が通りません。
 「やう」の方は、「このやうな」「次のうやうに」などと、しばしば文中に仮名書きで用いられるため、本来は字音仮名遣いなのですが、国語仮名遣いの中に融け込んでしまいました。使用頻度も「やう」の方が多いため、助動詞の「よう」を誤って「やう」と書いてしまう例があります。

 話し手の推量・意思を表す助動詞の「よう」を「やう」と書かないやう(書かぬ様ー様の字を当てて収まれば「やう」)ご注意下さい。(実は私も以前、書き誤りました。)
 なお、「やうやく春が来た」などの「やうやく」は、『広辞苑』によれば、「除・漫」の訓の「ややく」、又は「漸々」の訓の「やくやく」の転とされております。

(「紫」2009年4月号より転載) 

短冊展

2016.04.22 Friday 11:24

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」7

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(7) 若林波留美
 
〈「お・を・ほ」の使い分け〉
 新仮名遣いでワ行の「を」を用いるのは、助詞の「を」のみですが、「旧仮名遣ひ」では「オ」の音を表す文字として「お・ほ・を」が用いられます。その使い分けの原則を挙げると、次のようになります。

◎「オ」の音が語頭にあるときは主として「お」と書き、語中・語尾にあるときは主として「ほ」と書く。

特定の語については、語頭及び語中・語尾の「オ」音に「を」を用いる。
 言い換えれば、語頭に用いるのは「お」又は「を」で、「お」の方が多く、語中・語尾に用いるのは「ほ」又は「を」で、「ほ」の方が多いということです。
 また、「お」と「を」の使い分けについて、次のような面白い特徴があります。

大きい「お」と、小さい「を」
 ●強大・年長などの意味を含む語には「お」を用いる。
〔 例 〕 おほきい(大きい)・おほい(多い)・おほやけ(公)・おきな(翁)・おうな(媼)・おい(老い)
   
 ●弱小・若年などの意味を含む語には「を」を用いる。
〔 例 〕をがは(小川)・を(尾・緒)・をさない(幼い)・をとこ(男)・をんな(女)・をとめ・をつと(夫)
 「老い」と「幼い」などは対で覚えると良いでしょう。

◎その他「を」を用いる語の例
 をる(居る)・をる(折る)・をはる(終)・をしへ(教)・あを(青)・うを(魚)・かをる(香・薫)・とを(十)
 なお、「降る・織る」は「お」を用います。紛らわしい「織る」と「折る」の使い分けについては、先の「大きい・小さい」の決まりを思い出し、「織るほどに大きくなる→お」「折るほどに小さくなる→を」と覚えたらいかがでしょう。

◎語中・語尾の「オ」音に「ほ」を用いる語の例
 いとほしい・いはほ(巌)・うしほ(潮)・おほかた(大方)・おほせ(仰せ)・おほふ(覆ふ)・こほり(氷)・こほろぎ(蟋蟀)・とほい(遠い)・とほり(通り)・なほ(尚)・にほふ(匂ふ)・ほほ(頬)・ほのほ(炎)
 「頬」の語は、「頬杖・頬紅」などでは「ホオ」と発音しますが、単独で「頬」と言うときや「頬笑む」と言うときなどは、今でも「ホホ」と発音します。古くは「ホ」と発音していた名残が伝わる語と言えるでしょうか。

◎語中に「お」を用いる語は「はおり(羽織)」の一語のみ
 言うまでもないことでしょうが、複合語の場合は、元の語が「お」を語頭に用いていれば、語中でも「お」となります。
〔 例 〕うまおひ(馬+追ひ)・みやこおち(都+落ち)

 なお、「オ」と発音する表記には「あふげばたふとし(仰げば尊し)」のように、「ふ」と書く例もあります。
 また字音仮名遣いとしては、「わうごん(黄金)・わうさま(王様)」のように、「わ」を用いる語もあります。
 本来漢字で書かれる語を、あえて仮名書きするときは、辞書で確かめてください。

(「紫」2009年3月号より転載)

シルエット

2016.03.25 Friday 11:23

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」6

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(6) 若林波留美

〈「じ」と「ぢ」の使い分け〉

 前回の「ず」と「づ」の使い分けと説明が重複する部分がありますが、「じ」と「ぢ」の使い分けについて述べます。

◎打ち消しの推量・意思などを表す助動詞は「じ」・「まじ」と書く。

 例 負けじ・あるまじき・笑ふまじ

 前回、否定を表す助動詞は「ず」と書く、と述べましたが、今回の「じ」「まじ」も同じザ行と覚えて下さい。

◎サ行変格活用「為(す・する)」を元とする語は、「じ」「ず」と書く。

 例 感じる(感ず)・信じる(信ず)・甘んじる(甘んず)

 体言や漢語などを動詞化するときに用いる「す・する」(例・愛す)が、上の音(おん)との関連で濁音化したものですから、ザ行の仮名を用いるのは当然です。

◎連濁による「じ」と「ぢ」
 連濁については前回述べましたので、説明は省きますが、例を挙げると次のような語があります。

○連濁による「じ」の例
 いたじき(板+敷)・たてじま(縦+縞)・てじな(手+品)・まなじり(目+後(しり))・わらひじわ(笑+皺)

○連濁による「ぢ」の例
 いへぢ(家+路)・ちぢ(千々)・はなぢ(鼻+血)・みぢか(身+近)・むそぢ(六十路)・もらひぢち(貰+乳)
 
◎ダ行活用の語は「ぢ」(「づ」)と書く。
 前回と重複しますが、「怖(お)づ・閉づ・綴(と)づ・恥づ・攀づ」はダ行活用の語です。(「ぢ・ぢ・づ・づる・づれ・ぢよ」と活用)特に「恥づ」「閉づ」はよく使われる語ですので、覚えて下さい。名詞化した場合「はぢ」「とぢ」となります。
 (「出づ・撫づ・愛(め)づ」もダ行活用 ー 前回既出)

◎その他の「じ」と「ぢ」を用いる語では、「じ」と書く語の方が多い。従って「ぢ」と書く語の方に注意して下さい。

○「じ」と書く例(特に「ぢ」と紛らわしい語例)
 くじ(籤)・さじ(匙)・つじ(辻)にじ(虹)・にじむ(滲む)・みじかい(短い)・みじろぐ(身じろぐ)

○「ぢ」と書く主な例
 あぢ(味・鰺)・あぢさゐ・すぢ(筋)・ちぢみ(縮)・なめくぢ・なんぢ(汝)・ひぢ(肘)・ふぢ(藤)・もみぢ(紅葉)・わらぢ(草鞋)
 いぢる・いぢらしい・けぢめ・ぢかに・ぢきに・ねぢる・よぢれ
 
 なお、原則として国語仮名遣いの語例を挙げましたが、藤(ふぢ)に対し富士(ふじ)は「士」の字音仮名遣いとなります。

 ところで、新仮名遣いでは、字音仮名遣いとしての「ぢ」が抹殺され、「じ」にされた例があります。例えば「大地」の地が「地面」では「じめん」となり、「治安」の治が「明治」では「めいじ」になってしまいました。「心中を察する」の中が「心中事件」では「しんじゅう(この部分新仮名遣い)事件」です。
 「旧仮名遣ひ」では、こうした不思議な例はありません。

(「紫」2009年2月号より転載)

紅梅



2016.02.09 Tuesday 11:22

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」5

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(5) 若林波留美

〈「ず」と「づ」の使い分け〉
 古くは発音の違いがあったものと思いますが、江戸時代以降、違いが判らなくなったと言われる音に「じ」と「ぢ」・「ず」「づ」があります。「じ・ぢ・ず・づ」の仮名を纏めて、「四つ仮名」と称んでいます。
 現代仮名遣いでは、この使い分けに規則性が見られなくなりましたが、「旧仮名遣ひ」では、規則性が保たれており、語源につながるようになっています。
 今回は、「ず」と「づ」の使い分けについて取り上げ、次回に「じ」と「ぢ」の使い分けを取り上げます。

◎否定形(打消しの助動詞)は「ず」と書く。

 例: せず・出(いで)ず・問はず・向う見ず

 否定を表すのが「ず」であることは、必ず覚えて下さい。
 特に「出(い)でず」の語は、文語表現の場合「で」を省略することもあり、「出(い)づ」は「出る」・「出(いで)ず」は「出ない」の意味になります。現代仮名遣いでは「出づ」が「出(い)ず」となり、出るのか否か判らなくなりました。「地虫出ず」と書かれたのでは、地虫も出るに出られず困ることでしょう。


◎連濁による「ず」と「づ」

 連濁とは、二つの音が熟語として一語になったとき、下の語の初めの清音が濁音となることで、例えば「三日月」の「つき」が「づき」になるようなことを言います。連濁の場合は、元の清音の語に応じて、それが「す」なら「ず」、「つ」なら「づ」になります。迷ったら元の語に戻して下さい。

○連濁による「ず」の例
 きぬずれ(衣+擦れ)・すずり(墨+磨り)・ゆきずり(行き+摺り)・こずゑ(木(こ)+末)・いしずゑ(石+据ゑ)

○連濁による「づ」の例
 みちづれ(道+連れ)・ぬかづく(額(ぬか)+突く)・いなづま(稲+妻)・あひづち(相+槌)・いそづり(磯+釣)


◎ダ行活用の語は(「ぢ」)「づ」と書く。
 
 出づ・・・「で・で・づ・づる・づれ・でよ」と活用。
 「撫づ・愛(め)づ」も同様

 恥づ・・・「ぢ・ぢ・づ・づる・づれ・ぢよ」と活用。
 「怖(お)づ・閉づ・綴(と)づ・攀づ」も同様。


◎ザ行活用の語は「ず」と書く。

 爆(は)ず・・・「ぜ・ぜ・ず・ずる・ずれ・ぜよ」と活用。
 「弾(は)ず(弾ぜる)・混(ま)ず(混ぜる)」もザ行活用。


◎その他の「ず」と「づ」を用いる語では、「づ」と書く語の方が多い。従って「ず」と書く語の方に注意して下さい。

○「ず」と書く例
 かず(数)・かならず(必)・きず(傷)・くず(葛)・すず(鈴)・すずしい(涼)・ずつと・ずれる・たたずむ(佇)・はず(筈)・はずむ(弾)・みみず(蚯蚓)

○「づ」と書く主な例
 あづける(預)・いたづら(徒・悪戯)・いづみ(泉)・いづれ・くづ(屑)・くづれる(崩)・しづか(静)・ひとつづつ・まづ(先)・みづ(水)・みづから・ゆづる(譲)

(「紫」2009年1月号より転載) 

花やつで

2015.12.18 Friday 11:20

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」4

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(4) 若林波留美

 〈音便の仮名遣ひ〉
 音便とは、次に続く音によって口調が変わり、表記にもそれが現れるものをいいます。禿鍔饌乎『私の國語教室』によれば、「音便とは文字どおり、発音の便、都合であります。一語と見なされる語の一部が、本来はそういう音ではないが自ずと発音しやすいようにそう変わった、その現象を音便といいます。」(*原文は旧字・旧仮名遣い)とあります。つまり、一種の便法であり、正規の発音に対し、やや崩れた発音と言えるでしょう。
 しかし、音便にも一定の規則があります。音便には、次の四種類があります。
 
 イ音便
 ウ音便
 促(そく)音便 (つ)
 撥(はつ)音便 (ん)

 音便が生じる例のひとつに、動詞の連用形に助詞「て」が付く場合があります。
 
(以下:正規の発音→音便の変化)
 付きて→付いて ・ 歩きて→歩いて (イ音便)
 添ひて→添うて ・ 慕ひて→慕うて (ウ音便)
 立ちて→立つて ・ ありて→あつて (促音便)
 噛みて→噛んで ・ 学びて→学んで (撥音便)

 ここで特に注意が必要なのは、イ音便ウ音便です。このふたつの音便は、ハ行活用の「ひ・ふ」と紛らわしく、「付ひて」「添ふて」などと誤って書いてしまいがちです。助詞の「て」は連用形に付くという規則があるので、本来の活用に戻り、連用形の「き」が「い」に・「ひ」が「う」に変化したと考えて下さい。ハ行活用の語のウ音便は、殊に紛らわしいので、注意が要ります。(実例を後述します。)

 促音便(つ)と撥音便(ん)は、他の仮名表記と重ならず、また、この二つの音便は、どちらかと言えば口語的表現で、文語表現には然程(さほど)現れません。なお、正しい「旧仮名遣ひ」では、促音の「つ」は小文字になりません。
 
 助詞「て」が付く場合以外のイ音便・ウ音便の例を、いくつか挙げます。

イ音便 ござります→ございます(×ござゐます)
    さきはひ →さいはひ (×さひはひ)
    つきたち →ついたち (×つひたち)

ウ音便 ありがたく→ありがたう(×ありがとう)
    はやく  →はやう  (×はよう)
    おいしく →おいしう (×おいしゆう)
    神々(かみがみ)しい→かうがうしい(×こうごうしい)


 特に誤りやすい例としての、ハ行活用の語のウ音便を次に挙げます。

 向かひ(「向かふ」の連用形)→向かう(ひ→う)
  向かう岸・向かう側 など(×向かふ岸・向かふ側)
 
 動詞の終止形・連体形としての「向かふ」は「ふ」と書く。
  立ち向かふ・京へ向かふ など (×向かう)

 なお、現代の発音としては、「向かう岸」「ムコウギシ」となりますが、表記は「こう」でなく「かう」です。

*参考までに
 助動詞「む」(「ありけむ」などの「む」)が「ん」となったのは、後世の音の変化による表記であり、音便ではない。

(「紫」2008年12月号より転載) 

冬の畑


2015.11.17 Tuesday 11:18

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」3

 

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(3) 若林波留美

 

〈動詞の活用◆
 前回「ア行・ハ行・ヤ行・ワ行活用」で、「い・う・え」と発音される部分の使い分けが大切、と書きました。
 今回は先ず、語例の多いハ行活用とヤ行活用を説明します。
ハ行活用 終止形が「ふ」となる
 ハ行活用の語の多くは四段活用(は・ひ・ふ・ふ・へ・へ・と活用ー前回の活用表参照)で、語例は数多くあります。
 例えば、「会ふ・言ふ・思ふ・買ふ・恋ふ・慕ふ・吸ふ・添ふ」など、思いつくままにサ行まで拾っても、これほどありました。全体では、数え切れないほどあるでしょう。
ヤ行活用 終止形が「ゆ」となる
 ヤ行活用の語は、ハ行活用の語より少なく、次のような語があります。
 上二段活用 老ゆ・悔ゆ・報ゆ(三語のみ)
 下二段活用 覚ゆ・消ゆ・超ゆ・冴ゆ・聳ゆ・絶ゆ・映(は)ゆ
       冷ゆ・増ゆ・見ゆ・燃ゆ・萌ゆ など他数語
 ハ行活用とヤ行活用の見分け方は、終止形を思い浮かべ、終止形が「ふ」(発音は「う」)となればハ行、「ゆ」となればヤ行です。(例えば、消う・見う、とは発音しない。)
 前回の「まとめ」で示したように、例外とされる数少ない語の方を覚えるのが得策で、終止形が「ゆ」となれば、「ひ」「へ」は使わない、と覚えて下さい。
 ヤ行の仮名(やいゆえよ)は、「い・え」がア行と同じ字体ですが、活用の上ではヤ行の仮名があると思って下さい。
 老ゆ・悔ゆ・報ゆ、の語は、連用形(名詞化した時も)が「い」となります。この三語は、「老いを悔いても報いなし」と覚えたらいかがでしょうか。(老いを楽しみましょう。)
 前の行にある「覚え」や、消ゆ・超ゆ・見ゆ、などの語の連用形は「え」となります。「へ」とはなりません。
 ここで、一番紛らわしいと思う語の例を挙げます。
 耐ふ ー ハ行活用 へ・へ・ふ・ふる・ふれ・へよ と活用
 絶ゆ ー ヤ行活用 え・え・ゆ・ゆる・ゆれ・えよ と活用
 この二語は、語幹が同じ「た」の音なので、特に注意が必要です。我慢する方の「耐へ」はハ行活用で、ヤ行の「絶え」と区別するため、「耐へ」の方を「歯(ハ)を食いしばって我慢する ー ハ行」と覚えるよう薦めています。
 また「絶ゆ」の方は、他動詞が「絶やす」であり、同じヤ行の仲間ということが判ります。他にも「冷やす・増やす・燃やす」など、他動詞からヤ行と推測できます。
ア行活用 「得(う)」の一語のみ(複合語「心得」を含め二語)
 活用は「え・え・う・うる・うれ・えよ」となります。
ワ行活用 
「植う・飢う・据う」の語は、終止形が「う」となり、連用形が「ゑ」となります。三語のみなので、覚えて下さい。
 「居(ゐ)る・率(ゐ)る・率(ひき)ゐる・用ゐる」は、終止形が「ゐる」となり、連用形が「ゐ」となります。(「用ゐる」は、本来はワ行活用ですが、後世ハ行・ヤ行にも誤用されました。)
(「紫」2008年11月号より転載) 
冬の虹

2015.10.27 Tuesday 18:39

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」2

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(2) 若林波留美

〈動詞の活用 
 「旧仮名遣ひ」による動詞の活用を覚えると言っても、そのすべてを覚える必要はありません。活用の原則を覚え、特に注意すべきところ、間違い易いところを理解すれば充分です。
 「旧仮名遣ひ」の活用では、五十音表のひとつの行(ハ行ならハ行・ワ行ならワ行)のみで活用し、他の行にまたがることはありません。(現代仮名遣いでは、ア行とワ行にまたがる例あり)
 注意すべきところの説明に入る前に、活用例の一覧を示します。(上一段・下一段活用等は、語例が少ないため省略します)

動詞活用表

次に、時代による音の変化により、ひとつの音に吸収され、現在では区別が付き難くなっている部分を、下に示します。

ア行 → あ    お

ハ行 → は    ほ

ヤ行 → や  ゆ  よ

ワ行 → わ  う  を

上で色文字・アンダーラインの部分。
なお、「お・ほ・を」は活用とは別の問題としてあとに譲ります。
「じ・ぢ」「ず・づ」も別稿とします。

この表の「」「」「」が、動詞の活用として使い分けなければならない、大切なところです。この部分を用いる活用としては、ア行活用・ハ行活用・ヤ行活用・ワ行活用があります。各行の説明は次回に譲り、先に「まとめ」のようなものをお示しします。

◎現在では「い」と発音するもの
 おおかたは「ひ」と書く。(ハ行活用)
   例外・・・「い」と書く。(ヤ行活用)
         「ゐ」と書く。(ワ行活用)

◎現在では「う」と発音するもの
 おおかたは「ふ」と書く。(ハ行活用)
  例外・・・ 「う」と書く。(ア行活用・ワ行活用)

◎現在では「え」と発音するもの
 おおかたは「へ」と書く。(ハ行活用)
  例外・・・ 「え」と書く。(ア行活用・ヤ行活用)
      「ゑ」と書く。(ワ行活用)

(「紫」2008年10月号より転載) 

紅葉

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