2015.12.18 Friday 11:20

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」4

作句のための 抜書き「旧仮名遣ひ」(4) 若林波留美

 〈音便の仮名遣ひ〉
 音便とは、次に続く音によって口調が変わり、表記にもそれが現れるものをいいます。禿鍔饌乎『私の國語教室』によれば、「音便とは文字どおり、発音の便、都合であります。一語と見なされる語の一部が、本来はそういう音ではないが自ずと発音しやすいようにそう変わった、その現象を音便といいます。」(*原文は旧字・旧仮名遣い)とあります。つまり、一種の便法であり、正規の発音に対し、やや崩れた発音と言えるでしょう。
 しかし、音便にも一定の規則があります。音便には、次の四種類があります。
 
 イ音便
 ウ音便
 促(そく)音便 (つ)
 撥(はつ)音便 (ん)

 音便が生じる例のひとつに、動詞の連用形に助詞「て」が付く場合があります。
 
(以下:正規の発音→音便の変化)
 付きて→付いて ・ 歩きて→歩いて (イ音便)
 添ひて→添うて ・ 慕ひて→慕うて (ウ音便)
 立ちて→立つて ・ ありて→あつて (促音便)
 噛みて→噛んで ・ 学びて→学んで (撥音便)

 ここで特に注意が必要なのは、イ音便ウ音便です。このふたつの音便は、ハ行活用の「ひ・ふ」と紛らわしく、「付ひて」「添ふて」などと誤って書いてしまいがちです。助詞の「て」は連用形に付くという規則があるので、本来の活用に戻り、連用形の「き」が「い」に・「ひ」が「う」に変化したと考えて下さい。ハ行活用の語のウ音便は、殊に紛らわしいので、注意が要ります。(実例を後述します。)

 促音便(つ)と撥音便(ん)は、他の仮名表記と重ならず、また、この二つの音便は、どちらかと言えば口語的表現で、文語表現には然程(さほど)現れません。なお、正しい「旧仮名遣ひ」では、促音の「つ」は小文字になりません。
 
 助詞「て」が付く場合以外のイ音便・ウ音便の例を、いくつか挙げます。

イ音便 ござります→ございます(×ござゐます)
    さきはひ →さいはひ (×さひはひ)
    つきたち →ついたち (×つひたち)

ウ音便 ありがたく→ありがたう(×ありがとう)
    はやく  →はやう  (×はよう)
    おいしく →おいしう (×おいしゆう)
    神々(かみがみ)しい→かうがうしい(×こうごうしい)


 特に誤りやすい例としての、ハ行活用の語のウ音便を次に挙げます。

 向かひ(「向かふ」の連用形)→向かう(ひ→う)
  向かう岸・向かう側 など(×向かふ岸・向かふ側)
 
 動詞の終止形・連体形としての「向かふ」は「ふ」と書く。
  立ち向かふ・京へ向かふ など (×向かう)

 なお、現代の発音としては、「向かう岸」「ムコウギシ」となりますが、表記は「こう」でなく「かう」です。

*参考までに
 助動詞「む」(「ありけむ」などの「む」)が「ん」となったのは、後世の音の変化による表記であり、音便ではない。

(「紫」2008年12月号より転載) 

冬の畑


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