備へ置く終の衣装を虫干す 鈴木登代子
さよならの五分前です冬夕焼け 鳥海美智子
<五分前>は、前句を承けて連鎖反応的に死出の旅路に発つ五分前と思ってしまう。しかし、この作品の場面設定は、色々な角度で捉えることが出来る。<さよなら>は、単なる別れもあろうし、恋人同士の、その日の別れもあろう。前述の肉親や知己の亡くなる五分前とも思える。さらに気球が滅亡する五分前なのかもしれない。
<泉下(せんか)>は、黄泉の国で、この世ではなくあの世のことである。霜柱を踏んだからと言って<泉下>が見える訳ではない。そういう日常的な世界だけに拘っていたのでは、詩としての俳句の次元を深めることは困難である。非日常の世界を顕現させることも大切である。
冬青草スローライフはいい響き 小田島洋子
スローライフは、現代人の性急な生き方と真っ向対立している。また、<スローライフはいい響き>という措辞は、読んで字のごとく良い響きである。その響きは、スローライフを称揚しているかのようにも思える。季語の選択も十全で申し分のない一句となった。
山�十生
(紫2012年2月号/行雲流水より)