2012.11.30 Friday 12:21

去年の紫 5


野良猫となりし由来を聞く冬日 柳田泰子(紫 2012年3月号より)

突然ではあるが、わたしはすべての動物の中で一番だといえるほど、猫が好きだ。道で野良猫を見つければその場に立ち止まり、声をかけずにはいられない。
ほとんどの野良は警戒し、あわてて逃げていってしまうが、ときにものすごく人懐こい猫に出会えるときがある。こちらにすり寄り、甘えた鳴き声を上げてくる。そのあまりにも人に慣れた様子から、もしかしたら昔は人間に飼われていたのかもしれないと思う。
掲句の猫は、きっとそんな猫だろう。
冬の日ざしはまぶしいが、空気はやはり冷たい。そんなときに、猫の高めの体温や毛皮の柔らかさを感じつつゆったりと過ごせたら、とても満ち足りた気持ちになるだろう。
この野良猫はこのあと、寄り添っていた人間の家に、一緒に帰るのかもしれない。

豊永裕美(紫)


野良猫







2012.11.28 Wednesday 10:30

去年の紫 4

備へ置く終の衣装を虫干す      鈴木登代子
さよならの五分前です冬夕焼け    鳥海美智子

<五分前>は、前句を承けて連鎖反応的に死出の旅路に発つ五分前と思ってしまう。しかし、この作品の場面設定は、色々な角度で捉えることが出来る。<さよなら>は、単なる別れもあろうし、恋人同士の、その日の別れもあろう。前述の肉親や知己の亡くなる五分前とも思える。さらに気球が滅亡する五分前なのかもしれない。

霜柱踏んで泉下を覗きけり   池田惠

<泉下(せんか)>は、黄泉の国で、この世ではなくあの世のことである。霜柱を踏んだからと言って<泉下>が見える訳ではない。そういう日常的な世界だけに拘っていたのでは、詩としての俳句の次元を深めることは困難である。非日常の世界を顕現させることも大切である。

冬青草スローライフはいい響き    小田島洋子

スローライフは、現代人の性急な生き方と真っ向対立している。また、<スローライフはいい響き>という措辞は、読んで字のごとく良い響きである。その響きは、スローライフを称揚しているかのようにも思える。季語の選択も十全で申し分のない一句となった。


山�十生
(紫2012年2月号/行雲流水より)



カモ




2012.11.26 Monday 22:14

「紫」11月号・5

 新星集より(会員作品)

猫会議花火の音に解散す       秋山幸子

炎天に真向勝負懸けてみる      猪熊みね子

炎昼の町ひそやかに夕べ待つ     淤見万知

普段着にコロン一滴水巴の忌     小林弘恵

幸福であることが義務山滴る     坂上技

終戦日語れる人は語らない      椎名和夫

炎昼を歩けば孤独深まりぬ      篠田典子

撫子を胸から出して今日終る     白戸麻奈

終戦日あふるる鍋のあぶくかな    豊永裕美

雲の峰登らむとして歩き出す    頓珍漢 

豊の秋この平穏な不安感       守屋道子


            (「紫」2012年11月号 No.822より )

蓮の葉








2012.11.23 Friday 21:43

「紫」11月号・4

  山紫集より(同人作品・続)

ひとり来て夏野の風に放電す     小林敏子

自尊心傷つけまいと水を打つ     斉藤順

先きざきの見えぬ倖せ雲の峰     斉藤久子

さみしさの数だけ金魚泳がせる    島田良江

ふかぶかと春の空気を吸ふオルガン  鈴木浮葉

ふだん着の涼しいわたしの方を見て  相馬なぎさ

オペを待つ胸に郭公鳴く余白     高橋裕子

まだ洩れる隣の明かり終戦日     瀧洋子

噴水の時々力抜く時間        西本明未

死にたい奴は死ねと潰れたかなぶん  平田らた




       (「紫」2012年11月号 No.822より )



夜の噴水








2012.11.21 Wednesday 21:25

「紫」11月号・3

 山紫集より(同人作品)

あるはずのなき隙間より滴りぬ   深沢ふさ江

星祭り同じにほひの人とゐる    福島ときみ

あの夏を仕舞ひこんだる貸金庫   藤澤晴美

真っ青な空道連れに滝落ちる    宮城留美子

万緑を引き摺り込んだ水鏡     渡辺明子

結界としての本分海の虹      渡辺智恵

憂きことの少し似てをり鷹の爪   安倍有子

大瀑布底の方より父の声      上田洋子

初蛍とすれ違ひたる通夜帰り    大平寿江

口外はしない約束ところてん    後藤宣代




            (「紫」2012年11月号 No.822より )

滝






2012.11.19 Monday 11:34

句会のご案内

12月上旬の句会



12月1日(土)  土曜句会*
         午前9時 東松山教育会館 東松山市立活動センターに変更
      
         窓の会
         午後1時 さいたま市立田島公民館(自主句会)

12月2日(日)  紫川口句会* (紫本部例会)
         午後1時 川口市立西公民館

12月3日(月)  すみれ会*
         午後1時 さいたま市立仲本公民館

12月4日(火)  万年青の会
         午後1時30分 川口市立前川南公民館

12月7日(金)  貴船菊の会* 
         午前9時 秩父市立歴史文化伝承館
        
         さつき会*
         午後1時 秩父市立歴史文化伝承館

変更注意
12月8日(土)   さくら草句会*
          午後1時 さいたま市立仲本公民館

変更注意
12月10日(月)   紫さいたま句会* (紫本部例会)
          午後1時 浦和コミュニティセンター
         (浦和PARCO10階)

12月11日(火)   ひだまり句会*
           午前10時30分 西川口コミュニティサロンひだまり

12月13日(木)     をまぎ句会*
12月20日(木)に変更  午後1時  さいたま市立尾間木公民 
                 プラザイーストに変更

11月15日(土)   ミューズ*
           午後1時 川口市立西公民館

           めぶき句会
           午後1時 さいたま市立桜木公民館


その他
紫通信句会*     12月10日(月)締切     作品5句(郵送)



*のついている句会の指導者は山�十生主宰です
 句会場はすべて埼玉県内です

お問合せ 紫の会



秋の花壇







2012.11.18 Sunday 13:26

副賞多数!俳句作品募集のご案内


「俳句の部」の作品を募集しています。
自然や風景、行事や風物、特産品から日常のたたずまいまで、
ふるさとにちなんだ題材なら何でもOK。
特別な応募資格も応募料も必要ありません。
副賞も多彩です。
ご興味のある方は応募してみてはいかがでしょうか?

作品     一人5点まで
締切     2012年12月31日
宛先     メール haicon@furusatotv.jp
       ハガキ 〒105-0003 東京都港区西新橋1-6-12 アイオス虎ノ門403
審査委員長  松澤雅世(「四季」主幹)


* 昨年受賞作から 
たましいをいれかえている雪の景   小松真紀子
切干やふるさとの月日のかけら    横田七瀬
金魚提灯吊り往生の地と決める    片山淳子
咳の一つ二つと夜は更けぬ      服部泰成
父母に触れ合うようにしゃぼん玉   小野寺迪
月の出の目玉の端が甘酸っぱい    塚越美子




傘鉾









2012.11.17 Saturday 15:09

婆娑羅忌

今日11月17日は紫の先師、故・関口比良男の14回目の命日です。紫では、昭和五十一年に刊行された関口比良男自選句集「婆娑羅(ばさら)」にちなんで「婆娑羅忌」と呼んでいます。婆娑羅とは「遠慮会釈なく振る舞うこと」「見栄をはること、伊達、虚飾」などの謂ですが比良男師は「中世において、次世代を担う庶民層の、自由奔放なエネルギーの先端をゆくものが婆娑羅である」と捉え、また逆説的ではありますが婆娑羅の真骨頂は常に「わび・さび」とともに存在していると言っています。「中世における反中世的な人間」に自身をなぞらえていたのかもしれません。


心身脱落いまありありと天の川

泉湧くことがどうして罪なのか

しかばねのひとつがふいに咳をする

終戦の日のさまざまな煙が立つ

大空に単細胞の冬日あり

十三夜項がもっとも浮世にて

能面の裏に溜まりし涙かな

切腹をすませて来たる男かな

蜩や杖のまわりがくらくなる

みんな眼をつぶって枯葉とびゆくよ

死の旅に眼鏡を忘れ来りけり

あちこちの痒くなったる大樹かな

起こし絵の富士より遠きものあらず

天の縄引けばたちまちしぐれけり


(関口比良男「婆娑羅」より)



祭袢纏






2012.11.16 Friday 21:42

忌日俳句

忌日俳句、というのが正式の呼び名かどうかはわかりませんが、歳時記には文学者を中心にいろいろな人の忌日(命日)が季語として載っており、忌日を詠み込んだ句も多数あります。「芭蕉忌」や「一茶の忌」などといういい方が一般的ですが、芭蕉忌は「時雨(しぐれ)忌」と呼ばれることがよくあります。これは芭蕉が亡くなったのが10月12日(陰暦)で時雨の季節であること、時雨は芭蕉が好んで詠んだ句材であったことなどによるようです。亡くなった季節やその作品にちなんだ忌日の呼び名としては、正岡子規の「糸瓜(へちま)忌」(9月19日)や太宰治の「桜桃(おうとう)忌」(6月19日)などが有名です。これらの呼び名はその忌日の季節が一目瞭然ですが、たとえば「一茶忌」などでは季節がわかりにくいですね。
一茶忌の雀の家族焚火越す     秋元不死男    (焚火:冬)
一茶忌やふかぶか掘りし葱の畝   安住 敦     (葱:冬)
一茶忌や雪とっぷりと夜の沼    角川原義     (雪:冬)
最近は何でもかんでも季重なりは禁忌という向きもあるようですが、これらの例を見ても、特に忌日を詠み込んだ俳句に関しては、あまりやかましく季重なりを言うのはどうなのかなと思います。
ちなみに一茶の忌日は陰暦11月19日。
それを知った上で読むと、
飄々と雲水参ず一茶の忌      飯田蛇笏
などのように、「飄々と雲水参ず」という上五中七と「一茶忌」という下五におかれた季語とが相まって、冬ざれの空気感・季節感を十分味わうことが出来ます。ですから忌日がいつかは知っているに越したことはありませんが、それに寄りかかりすぎて作句をすると独りよがりのわかりにくい句になる危険性がないとはいえません。
明日11月17日は紫の先師、関口比良男の命日にあたります。
また忘れ咲きに逢ひたる婆娑羅の忌      山十生

雲の形

 

2012.11.14 Wednesday 09:16

紫さいたま句会


「紫」の二つある本部例会のうちのひとつ。 
毎月第二土曜日、浦和コミュニティセンター 
(JR浦和駅東口徒歩二分・浦和パルコ10階)で
午後1時から4時30分に開催しています。
各自自由題で3句出句・8句選。会費1,000円。
(次回は12月10日(月)の予定です。)



山噂柔玄膾冒

天 絶望はもっと深くに秋の天       加津子
地 ひたすらに鍛へられたる隙間風     壽賀子
人 サスペンスは悪役次第月夜茸      寿江


鈴木紀子副主宰選

天 致死量となりし秋の高さかな      加津子
地 紐を解く紅葉かつ散るその前に     恵子


若林波留美副主宰選

天 ひたすらに鍛へられたる隙間風     壽賀子
地 薬味の葱つながってゐる一茶の忌    紀子


          (さいたま句会 2012.11.10)


 銀杏並木  
           



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